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ベテランの技は、なぜ消えていくのか|製造業22年の私が感じる技能継承の壁(前編)

「あの人がいなくなったら、この仕事、誰がやるんだろう」

製造業の現場で長く働いていると、ふとこんな不安がよぎることがあります。今回は、私が現場でずっと感じてきた「技能継承」の問題について、正直に書いていきます。少し重いテーマですが、製造業で働く人なら、きっと心当たりがあるはずです。

この記事は前編・後編の2回に分けてお届けします。前編では「なぜベテランの技が消えていくのか」という現場のリアルを。後編で「AIにこの問題を解決する手助けができないか」を考えます。

目次

教える時間が、どこにもない

まず、現場で起きている現実から話させてください。

年々、コスト競争は激しくなっています。納期は短く、求められる精度は高く。現場は常にギリギリで回っています。そんな中で、何が後回しになるか。新人教育です。

本当は、じっくり時間をかけて新人に技術を教えたい。でも、その時間がどこにもない。目の前の仕事をこなすだけで精一杯で、教育に割く余裕がないんです。

そうやって時間が過ぎていくうちに、何が起きるか。教える側のベテランが、定年を迎えてしまうんです。

技術を持った人が、その技術を誰にも渡せないまま、現場を去っていく。これが、今の製造業のあちこちで起きている現実です。

マニュアルに書けない技術がある

では、なぜ「教える時間がない」とそんなに困るのか。マニュアルを作っておけばいいじゃないか、と思うかもしれません。

でも、現場の技術には、マニュアルに書けないものがたくさんあるんです。

たとえば、音。機械が出すわずかな音の違いで、「いつもと違う」と気づく。何かおかしいと察知する。これは長年の経験で身についた感覚で、文章にしようとしても「異音がしたら注意」としか書けません。でも、その”異音”がどんな音なのか、新人には分からないんです。

たとえば、ワーク(材料)の感触。手で触れたときの感覚で、材料の状態を判断する。これも、言葉にするのが本当に難しい。「いい感じ」「ちょっと硬い」——そんな曖昧な表現しか出てこない。でも、ベテランはその感覚で正確に判断しているんです。

こういう「体で覚えた技術」は、言葉にしにくい。だからこそ、人から人へ、時間をかけて伝えるしかなかった。その時間が、今は取れない。ここに継承の壁があります。

もし、すべてを言葉にできたら

ここで、私がずっと考えてきたことがあります。

もし、こうした技術や感覚を、すべて数字やマニュアルに残すことができたら——どうなるでしょう。

言葉にできれば、技術を細かく分解できます。ひとつの大きな「職人技」を、いくつもの小さな手順に分けられる。そうすれば、一人のベテランにしかできなかった仕事を、複数の人で分担できるようになります。

体力に自信がない人でも、入ったばかりの新人でも、海外から来た研修生でも。きちんと言語化された手順があれば、それぞれが自分のできる部分を担える。

これは、人手不足に悩む現場にとって、大きな希望です。「あの人にしかできない」を「みんなで分けてできる」に変えられたら、現場はずっと楽になります。

でも、その作業は膨大すぎる

ただ、ここに大きな問題があります。

ベテランの頭の中にある技術や感覚を、ひとつひとつ言葉にして、整理して、マニュアルにしていく。この作業が、とにかく膨大なんです。

ひとりの職人が何十年もかけて積み上げてきたものを、全部言語化する。考えただけで、気が遠くなります。ただでさえ教える時間すらない現場で、そんな途方もない作業をこなす余裕は、どこにもありません。

「言語化できれば解決する。でも、言語化する時間がない」

この矛盾の前で、私はずっと立ち止まっていました。

でも最近、ひとつの可能性に気づいたんです。この膨大な作業を、AIが手伝ってくれるんじゃないか、と。

長くなったので、その話は後編で書きます。AIは、消えていくベテランの技を、本当に残す手助けができるのか。次回、私なりに考えてみたいと思います。

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